インタビュー作品

「正直に生き抜いた父の姿を家族が再確認した作品です」

作品名『もどりやんせ』
松本 伴治さん(愛媛県・58才) 作品時間:13分38秒
撮影時間:5時間 編集時間:48時間

作品概要
痴呆症の母の看病に疲れ切っていた父が亡くなった。遺品の中から出てきた1枚のメモには「母を頼む」とあった。私は母を施設から自宅に呼び戻し、一緒に父のために花を育てた。「天国の花」と名付けたその花は、父の魂とともに見事、初盆に戻ってきた。

●どのような思いでこの作品を制作されたのでしょうか?
この作品をつくるかどうかは迷ったんです。でも、亡くなった父の、貧乏でも細く長く正直に生き抜いた姿を紹介したいと思いました。自分の“情”ばかりが先走ってしまったかな、とも反省しているのですが、親の「死」を題材にしたものとしては嫌味のない作品になったかなと思っています。

●死期の近いお父さまを撮影するのは、つらいことではなかったですか?
作品には出していませんが、臨終のシーンも撮影しているんです。看護婦さんやお医者さんには怒られましたが。でも、この世の最期の姿をカメラにおさめることは大事だと思って撮りました。

●普段からご両親のことはよく撮影していたのでしょうか?
父のことはあまり撮っていませんでした。しかし、死期が近いということを感じて、毎日病院に見舞うときにカメラを持って行きました。普段は必ず撮らせてもらう方の了解を得るのですが、今回は父と私のごく自然な様子を残したかったので、小さなカメラで父には分からないよう撮影しました。

●作品づくりで工夫した点はありますか?
お盆という地域の風習も取り入れました。作品で登場する盆花は、名前は知らないのですが、この地域ではよく使われている花です。また、母の介護のことも盛り込むなど「介護」や「家族」もテーマになっています。

亡き父を偲ぶ作品 「父の部屋から見えるこの花を“天国の花”と名付けました」 生前の父。「かあちゃんに会いたい?」「うん」

●ラストで、お父さまの魂に「はようもどりやんせ」と呼びかけるシーンが印象的です
人間の魂が死後どこに行くかは分かりませんが、最後には自分の心の中に宿るんだということを表現したつもりです。

●作品について周囲の反応はいかがでしたか?
ネットで公開されたので、知らない方から「感動しました」という電話をもらいました。「涙が出た」と言ってくれた知人も。介護問題など、人事ではないテーマが含まれているからでしょうか。

●作品をつくり終えてのいまの心境は?
父の生きざまをあらためて見て、私も家族も「これから頑張っていきたい」と気持を引き締められました。また、この作品をつくることによって、父の最期の姿をきちんと残すことができました。我が家の宝になったと思っています。

●次回作のテーマは?
わが家に来て10年になる犬を題材にしてみようかと。北海道からやって来た犬で、もう高齢なので一度故郷に連れて行ってあげたいんです。今後も、日常の当たり前の生活を記録していくなかから、作品を通じて人生の瞬間や自分の生き様を表現していきたいですね。

父の遺品から“母を頼む”と書かれたメモが。痴呆で施設にいる母を迎えにいく決心をする 「天国の花、やっと盆に間に合いましたな」父の霊を送る 「なあ、おやじ。あんたの魂どこに宿るの?はよう、ここにもどりやんせ」


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